カスハラ対策法が可決
2025年6月、「カスタマーハラスメント対策法」(正式名称:労働施策総合推進法等の一部を改正する法律)が国会で可決・成立しました。
施行は2026年10月の予定。全国の企業にとって、従業員を守るための大きな転換点となる法律です。
「お客様は神様」という言葉が、時に従業員を苦しめる鎖になる——そんな時代に終止符を打つ一歩が、ようやく踏み出されました。
●カスタマーハラスメントとは
この法律では、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)を次のように定義しています。
顧客等による「社会通念を超える言動」により、労働者の就業環境が害される行為
つまり、「お客様だから何をしても許される」という時代は終わりを迎え、理不尽な言動はハラスメントとして扱われるようになったのです。
例えば、製造業の現場では、下記のようなケースが典型的なカスハラにあたります。
製造業における具体的な事例
- 不具合の原因が不明確にもかかわらず、「すぐに全品交換しろ」「今すぐ謝罪に来い」と過剰に要求する
- 電話やメールで長時間にわたり、罵声や人格否定的な発言を繰り返す
- 製造途中で「仕様を変更したから無償で対応しろ」と迫る
- 実現不可能な条件を突きつけ、「できないなら取引を打ち切る」と恫喝する
- 納品現場で運送担当者に対し、乱暴な言動や威嚇を繰り返す
こうした行為は、従業員の精神的な負担や離職につながる深刻な問題です。
これは製造業に限らず、接客業や医療現場など、あらゆる職場で起こりうる現象でもあります。
●企業に課される義務
今回の法改正により、企業には「雇用管理上の措置義務」が課されることになりました。
具体的には以下の対応が求められます。
- カスハラへの対応方針の明確化と社内周知
- 相談窓口・相談体制の整備
- 発生時の対応手順の策定(報告・記録・上司への引継ぎなど)
- 社内研修や啓発活動の実施
これらを怠った場合、労働局による助言・指導・勧告・公表などの行政措置の対象となる可能性があります。
●法律制定の背景
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントはすでに法制化され、企業に義務が課されています。
しかし、カスハラに関しては明確な法規制がなく、現場任せとなっていました。
その結果、従業員が過度なクレーム対応を強いられ、メンタル不調や離職を招くケースが増加している現状があります。
こうした状況を受け、東京都では2025年4月にカスハラ防止条例が施行され、国もそれに続いて今回の法律を成立させました。
●顧客側に求められること
この法律では、企業だけでなく、顧客等にも「労働者の就業環境を害さないよう配慮する努力義務」が設けられています。
私たち一人ひとりが「相手も人間である」という意識を持ち、尊敬と思いやりの心で接すること、過度な要求や攻撃的な言動を控えることが、これからの社会に求められる姿勢です。
●これからの企業に必要な視点
カスハラ対策法の施行により、企業は「顧客第一」だけでなく、「従業員を守る責任」を果たすことが法律で明確に義務付けられました。
- 従業員の安心・安全を守る体制づくり
- 相談しやすい環境と対応ルールの整備
- 教育・研修による意識向上
これらを整えることが、これからの企業経営には不可欠です。
企業・従業員・顧客が、お互いを思いやる社会を作っていく担い手であることを忘れず、だれもが働きやすい労働環境で働くことができる社会の実現にむけて、この法律がそんな未来への一歩となることを心から願っています。