「がんばれ」では「がんばれない」
「がんばれ」はよく使う言葉です。
自分に対しても、人に対しても、良く使いますよね。
なぜなら、とても便利な言葉だからです。
例えば
人に対して
「疲れた」と気力がない人に「がんばれ」
「仕事が終わらない」と追い詰められている人に「がんばれ」
「失敗した」と落ち込んでいる人に「次、がんばれよ」
などなど、だいたい、「がんばれ」って言えば、会話が成り立ってしまいます。
「がんばれ」は激励の言葉ですが、すでに、精一杯頑張っている人にかけると、もっと、もっと成果を出せと追い詰める言葉になってしまいます。
◆苦い思い出
私の娘が3歳の時、幼稚園のはじめての発表会に向けての練習中
私は、毎日娘に「発表会の練習、がんばれ!」と言い、夫や祖父母も会うたびに「がんばれ」と声をかけていました。
もちろん、激励の意味でかけた言葉であり、それは、娘以上に私たちが発表会を楽しみにしていたからでした。
ところが、発表会の夜、娘は腹痛を訴え、夜間の小児救急へ。
そのまま入院となりました。
病院の先生から「この子は3歳だけど、ものすごくストレスがかかっています。なにかありましたか?」
と聞かれました。発表会の事を話すと、
「本人は精一杯がんばっているのに、がんばれ、がんばれ、と言われると、今のままではだめだ、もっと、もっとがんばらないと、と思ってストレスになります。」
と言われました。
その日から、私は娘に「がんばれ」と言わないようにしました。
これは、けっこう不便ではありました。大事な試合の前や、受験の前など「がんばれ」と言いそうになる場面では「落ち着いて」とか「回答欄がズレていないか最後に確認してね」などと言うようにしました。
◆自分に対して使う「がんばる」
また、自分に対しても「がんばる」と言う言葉をよく使いますよね。
例えば、
「仕事をもっとがんばる」
「体がだるいけど、がんばろう」
「ミスをしないようにがんばろう」
など、自分を励ますように使っています。
しかし、脳科学的に言うと、「がんばる」では力が発揮できません。
なぜなら、「がんばる」は脳にとって「意味不明」な言葉だからです。
なにをどうがんばるのか、具体的に指示されないと、脳はどのように対処したらいいかわからないのです。
◆具体的な指示
仕事を頑張るなら、具体的に、今日は、この資料を仕上げて、この報告書を書いてなどやることを具体的に脳にイメージします。
体がだるいなら、がんばるではなく、休むや、薬を飲むという対処をします。
ミスしないように、という時点で、ミスすることが前提にあるため、脳はミスというマイナスイメージを持ってしまい、力が発揮できなくなります。
ミスしないように、ではなく、必ず見直す、などと具体的に脳に指示を出さないといけないのです。
◆達成感が得られない
そして、「がんばる」では、その成果は見えにくいので、達成できたかどうかわかりません。
具体的に
この資料を仕上げる、報告書を書く、なら出来上がれば、達成です。
体がだるいことに対しては、少し休憩するや、薬を飲むなので改善すれば、達成です。
見直すは、おこなった作業や、作成した書類を最後に見直して、間違いがないことを確認したり、間違えたところを修正できれば、達成です。
このように、具体的にやることを示すと、その成果もわかり、達成感も得られます。
しかし、「がんばる」では、なにをどうがんばったのか、どこでそれを達成したと判断するのかがあいまいです。
つまり、「がんばる」という言葉では、脳は混乱し、なにをすればいいかわからず、達成感が得られない、という残念なことになってしまいます。
何かをがんばるなら、その内容を具体的にしないといけません。
ただ、「がんばる」では、実はがんばれないのです。
◆有言実行
「仕事をがんばる」は一番抽象的です。
その言葉を言う時は、頭にはぼんやりイメージがあると思いますが、それがぼんやりしたままだと、実行できないのです。
「受注につなげるために、今日はアポ取りの電話を20社にかける」
など、具体的にイメージすることで脳はなにをすればいいのかがわかります。
なおかつ、その言葉を口に出す方が効果的です。
耳から入った言葉は、もう一度脳にインプットされます。
そして、自分の言ったことは、守ろうとする一貫性の法則が脳にはありますから、より一層、目的を達成する確率が上がります。
「有言実行」は脳科学的にとても有効な手段です。
◆「がんばる」の使い方
いつも、なにげなく使っている「がんばる」と言う言葉。
便利なので、どんな場面でもつい口にしてしまいますが、この言葉を使わないようにするだけで、いつも具体的なイメージを持つことができます。
「がんばる」「がんばれ」は自分に対しても、人に対しても、気を付けて使いたい言葉ですね。