「パワハラはありません!」
2022年4月労働施策総合推進法、いわゆるパワハラ法の改正によって、中小事業主にも「パワハラ防止措置」が義務化されて、もうすぐ1年になります。(大企業は2020年6月から義務化)
防止措置はどのような効果をあげているでしょうか?
「うちは小規模で、資本金も従業員数も少ないから関係ない」と誤解している方もいるかもしれませんが、中小事業主の定義は下記の通りです。
中小事業主(①または②のいずれかを満たすもの)
業 種 | 資本金の額又は出資金の総額 | 常時使用する従業員の数 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 (サービス業、医療・福祉等) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 (製造業、建設業、運輸業等 上記以外全て) | 3億円以下 | 300人以下 |
つまり、従業員が10人以下であっても、資本金が100万円以下であっても、どんな業種でも「パワハラ防止措置」の義務はあります。
●「パワハラはありません」
「うちにはパワハラはありません。」とおっしゃる方がいます。
実はこれ、とても危険な言葉です。
なぜでしょうか?
例えば、
「弊社にはパワハラはありません。」
という言葉を聞いて、
「そうか、この会社にはパワハラはないのだ。」と素直に信じてくれる人がどれくらいいるでしょうか?
いろいろな防止対策をして本当にパワハラがないとしても、それを一言で「パワハラはありません。」
と言われると、ただ見て見ぬふりをしているだけではないか、と疑われてしまいます。
パワハラでの自殺事件の報道を受けて不安になっている人や、楽しく働きたいと思っている若者が多いこの時代に、職場のハラスメントに無関心でいられる人はほとんどいないでしょう。
就職の際、給与や休日、福利厚生などは募集要項に載っていますし、他の事も面接で聞けますが、一番知りたい社内の人間関係は入社してみないとわからない、というのが実情です。
●ないことの証明
では、「パワハラはありません。」をどう証明すればいいのでしょうか?
「あること」を証明するためにはそれを見せれば容易にできますが、「ないこと」を証明することはとても難しいことです。
だからと言って、言葉で説得しようと「パワハラはありません。安心してください。」と言ったところで、はたして本当に安心できるでしょうか?
安心してください、と言えば言うほど、疑念を抱かれることになるのは世の常です。
●安心感を与える方法
では、どうすれば「ないこと」を証明できるのでしょうか?
大切なのは「ないこと」を証明することではなく、「安心感を与えること」です。
どんな会社なら安心できるかと、ということです。
例えば
「弊社は、パワハラをはじめとするあらゆるハラスメントに対して、防止対策を徹底しております。匿名性の保たれる相談窓口の設置や、万が一ハラスメントが発生した場合の対応も迅速かつ適正に行えるように、対応マニュアルも作成しております。」
と言われるとどうでしょうか?
パワハラに対して誠実に対応している会社だと示すことで、安心感を与えることができます。
●心理的安全性
ワークライフバランスや健康経営、人的資本経営、ウェルビーイング経営の流れが勢いを増す中で、働く人のメンタルヘルスは重要ポイントになってきています。
ハラスメントのあるなしだけにとどまらず、ポジティブな気持ちで仕事ができる環境を整えることが、企業に求められる時代になりました。
チームのだれもが安心して発言できる心理的安全性の高い職場、そんな職場がイノベーションを起こし、生産性を高めると言われています。
心理的安全性の高い職場づくりは、これからの企業にとって重要かつ不可欠なものです。
心理的安全性の高い職場には、パワハラは存在しません。
しかしながら、安易に「パワハラはありません。」と言ってしまっては誤解を招きます。どのような取り組みをどんな意気込みでやっているかを語り、安心感を与え、心理的安全性の高い職場であることを示すことが大切です。