『理想の管理職』を丸投げしていませんか?教育コストをケチる組織の盲点

「あいつは営業成績がいいから、来月から課長にしよう」

「長く勤めてくれているから、役職を上げて給料を上げなければ」

そういう理由で何の教育も受けることなく、管理職になる人は、地方の中小企業において珍しくありません。

しかし、ハラスメント防止とウェルビーイングの専門家として多くの現場を見てきた私から言わせれば、これは極めて危険なギャンブルです。

なぜなら、「管理職としての教育(投資)」を一切受けていない人間に、ある日突然「理想のマネジメント」を求めることは、道具も持たせずに戦場へ送り出すのと同じだからです。

その結果、何が起きるか。

真面目な管理職ほどプレッシャーで潰れ、現場には不機嫌と威圧が蔓延し、最終的には「ハラスメントの発生」や「若手の離職」という最悪の結末を迎えます。

今回は、中小企業が陥りがちな「管理職への丸投げ」というハラスメントリスクについて、忖度なしで切り込みます。

1. 教育なき昇進が「ハラスメント上司」を生み出すメカニズム

誰もが最初から「ハラスメントをしよう」と思って上司になるわけではありません。むしろ、プレイヤー時代は優秀で、会社に大きく貢献してきたエース級の人材が、昇進した途端にハラスメント加害者になってしまうケースが少なくありません。

なぜ、優秀だった彼らが変わってしまうのでしょうか?

理由はシンプルです。

「やり方がわからない」からです。

・自分がされた「昭和の指導」しか引き出しがない

部下の褒め方、叱り方、業務の振り方を習っていないため、自分が若い頃にされてきた「厳しい叱責」や「根性論」をそのまま部下に再現してしまいます。これが現代の若手には「パワハラ」と受け止められます。

・「プレイヤーの脳」のまま部下と競ってしまう

マネジメントではなく「自分がやった方が早い」と仕事を抱え込み、できない部下に「なんでこんなこともできないんだ」とイライラをぶつけます。上司の不機嫌は、それだけで職場全体の心理的安全性を破壊します。

・プレッシャーによる心の余裕の喪失

上層部からは「業績を上げろ」と言われ、現場からは「優しくしてくれ」と言われる。会社からのサポート(研修やフォロー)がない孤独な環境で、管理職自身のウェルビーイング(精神的ゆとり)が限界を迎え、そのストレスが弱い部下への攻撃として噴出します。

これは個人の素質の問題ではありません。会社が教育を怠ったことで起きた「構造的なハラスメント」なのです。

2. 「自社が望む管理職になれ」という、経営者の甘え

厳しい言い方ですが、「優秀なプレイヤーなら、管理職になっても勝手にうまくやるだろう」と期待するのは、経営者や人事の「甘え」であり、職務怠慢です。

サッカーの名選手が、指導者の勉強をせずにいきなり名監督になれないのと同じです。マネジメントには、プレイヤーとは全く異なる「技術」が必要です。

技術を教えていないのに、「最近の管理職は頼りない」「マネジメント意識が足りない」と責めるのは、それ自体が会社から管理職への「過大な要求(パワーハラスメント)」と言えます。

教育コストをケチったツケは、以下のような形で何倍にもなって会社に返ってきます。

  1. 若手・中堅社員の「静かな退職(モチベーション低下)」と離職
  2. ハラスメントの告発による、企業の社会的信用の失墜
  3. 会社の屋台骨である優秀な管理職のメンタルダウン・離職

3. 研修がないなら「理念に基づいた人事評価」で基準を示せ

「うちのような中小企業には、大企業のような立派な研修制度を作る予算も時間もない」

そう思われる経営者の方にこそ、知っていただきたい解決策があります。

手厚い研修を行わなくても、管理職が「やっていいこと・ダメなこと」を迷わなくなる方法。

それが、【企業の経営理念に基づいた人事評価制度】の導入です。

会社の根幹である「理念」に紐づいた人事評価があれば、管理職が現場で取るべき「具体的な行動規範(OK行動・NG行動)」は自然とつくることができます。

これまでの地方中小企業の人事評価は、どうしても「売上をいくら上げたか」という数字(結果)だけに偏りがちでした。

だからこそ、「売上は上げるけれど、部下をハラスメントで潰す上司」が評価されてしまうという矛盾が起きていたのです。

評価制度の中に、

・「我が社の理念である『三方よし』を、部下とのコミュニケーションで体現できているか」

・「チームのウェルビーイング(心身の健康)に配慮したマネジメントを行っているか」

といった理念ベースの評価軸(プロセスや行動の評価)を明確に組み込む。これこそが、研修以上に強力な「管理職への教育」になります。

「何をすれば会社から評価され、何をすれば評価が下がるのか」という明確な物差し(行動規範)を人事評価として示すこと。

これがあれば、管理職は会社の望む方向へと自発的に舵を切ることができるようになります。

結び:管理職への基準提示は、コストではなく「最大の防衛策」

管理職に正しい道を示すことは、福利厚生でもなければ、余裕があるときにやる贅沢でもありません。

大切な社員と、会社そのものをハラスメントという爆弾から守るための「最優先の投資(危機管理)」です。

背中を見て育つ時代は終わりました。やり方がわからないまま打席に立たされ、数字だけを求められて、三振したらハラスメントだと責められる。そんな環境で誰も管理職になりたがるはずがありません。

まずは、研修の代わりに「理念に基づく人事評価」というブレない物差しを会社が用意してあげることから始めてみませんか?

管理職が安心して健全にリーダーシップを発揮できる職場にこそ、人が定着し、業績が伸びるという好循環が生まれるのです。

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