リーダーの言葉が部下の脳を変える
●リーダーの言葉がもたらす影響
例えば、何かのプロジェクトが始まるとき、あなたは部下にどんな言葉をかけていますか?
「ミスするなよ」
「丁寧に進めよう」
どちらも、仕事の質を高めたいというリーダーの思いから出た言葉かもしれません。
しかし、実はこの“言葉の選び方”が、部下の脳の働きに大きな影響を与えていることをご存じでしょうか。
脳科学の研究によると、人の脳はネガティブな言葉に敏感に反応します。
たとえば「ミス」という言葉を聞いた瞬間、脳の扁桃体が“危険信号”を発し、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されます。
この状態は、創造性や判断力を司る前頭前野の働きが抑制され、かえってミスが増えたり、意欲が下がったりするのです。
つまり、プロジェクトを滞りなく進めようというリーダーの意思を伝える時に、「ミスするな」という伝え方をすると、皮肉にもミスを誘発する脳の状態をつくってしまうのです。
●言葉が脳のスイッチになる
一方で、「丁寧に進めよう」「安心して取り組んでね」といったポジティブな言葉や、落ち着いた声のトーンは、オキシトシンというホルモンの分泌を促します。
オキシトシンは「愛情・信頼ホルモン」とも呼ばれ、人との絆を深め、協力的な行動を引き出す働きがあります。
つまり、リーダーの言葉は、単なる情報伝達ではなく、部下の脳の状態を変える“スイッチ”なのです。
言葉ひとつで、安心感が生まれたり、信頼が育まれたりするということを、リーダーは理解している必要があります。
●伝え方がチームを変える
ハラスメントに敏感な時代だからこそ、リーダーが意識すべきは“伝え方”です。
「期待しているよ」
「一緒に考えよう」
「あなたの意見を聞かせてほしい」
こうした共創のメッセージは、メンバーの自己効力感を高め、前向きな行動を引き出します。
また、脳には否定語を処理しにくいという特徴があります。
「ミスするなよ」と言われると、まず「ミス」という言葉のイメージが脳内に浮かび、その後で「しない」という否定を理解します。
つまり、最初にネガティブなイメージが脳に刻まれてしまうのです。
それよりも、「丁寧に進めよう」「確認しながら進めよう」といった肯定的な言葉で伝えることで、脳にはポジティブなイメージが浮かぶので安心した状態になり、行動の質が自然と高まります。
●言葉が文化をつくる
リーダーの言葉が変われば、チームの脳が変わる。
チームの脳が変われば、組織の成果が変わる。
日々の何気ない一言が、職場の空気をつくり、文化を育てていきます。
「言葉」は目に見えないけれど、確実に人の内側に届き、行動を変える力を持っています。
今日、あなたが部下にかける一言が、誰かのパフォーマンスを高めるきっかけになるかもしれません。
そしてその一言が、信頼の芽を育て、チームの未来を静かに変えていくのです。

